しかし、今回の選定の基準は違いました。ただ単純に、鉄道による冬らしい雰囲気を体験したかったのです。『鉄道さんぽ』のルールに則ると、今年からまた、私鉄➡JR➡私鉄…の順番で取り上げていきますので、今月は私鉄の月になるわけですが、ここで思い浮かんだのが、現在の日本最北端に位置する私鉄、津軽鉄道でした。
津軽鉄道線は、青森県津軽半島の津軽五所川原駅から津軽中里駅の約20km結ぶ路線で、以前北海道に走っていた北海道ちほく高原鉄道が2006年に廃止されてから、日本最北端に位置する私鉄となりました。石炭焚きのダルマストーブを用いる“ストーブ列車”は有名で、この鉄道の冬の風物詩ともなっており、全国からその車両に乗りにくるくらいです。ただ、基本はローカル線であり、経営は必ずしも良いとは言えない状態の路線ではあります。
自分は以前、ストーブ列車を含め、この津軽鉄道に乗車した事はあります。それは2007年1月の事〔竹内大輔の写真日記(〜2009)、旅日記 10.(津軽・日本海編・…2007.1.7~1.9)参照〕で、もう8年も前の事になりますが、その時は単純に路線を往復しただけで、まだまだ見るべき所は沢山ある気がしていました…。また、最近の青森地方はずっと雪が降り続いていて、冬らしい雰囲気を味わうには最適とも思いました(以前来た時は、雪は少ししか積もっておらず、天気も雪どころか雨の天気でした…)。
しかし、やはり『鉄道さんぽ』としてハードルが高いのが、起点の津軽五所川原という場所でしょう。青森県の中でも、東京からは簡単にアクセス出来る場所ではなく、ここは日帰りという側面を外し、1日目は青森までの移動日に充て、翌日の2日目の早朝から津軽鉄道に乗る…という手法を取らせて頂きました。流石に拠点は弘前にしましたが、朝早くから行動したかった故、弘前駅を5:41に発車するJR五能線に乗り、津軽五所川原駅6:35発の津軽鉄道の始発に乗る事が出来ました。早朝は列車の本数が若干多い為、こちらを最大限に利用しようとも思ったのです。
…という事で、今回も朝早くから始まった“鉄道さんぽ”。雪も期待通りに積もっており、天候が心配されたものの、見事に晴れ間が広がるという恵みを頂きました!…最初に乗車をしてから8年経った津軽鉄道はどうなっているのか…。その部分も含めて楽しみたいと思います。それではどうぞ御覧下さいませ!
●日時…2015年2月5日 ●距離…20,7km ●駅数…12駅
朝6:30の津軽五所川原駅はまだ暗く、積雪に駅の蛍光灯が照らされ、深くて濃い青色の光景が展開されていました。駅構内は静でしたが、ディーゼル車のエンジン音が響き渡る事で、1日の始まりを予感させてくれているように感じます。ここが津軽鉄道の起点駅ですが、まだ時間的に早過ぎるので、まずは一気に終点の津軽中里駅まで向かい、そこから“さんぽ”しながら戻ってくるというコースを辿りたいと思います。…見るからに寒そうな写真ですが、この時点では、これから北の果ての鉄道に乗れるという期待感が勝っており、あまり寒さは感じていなかったように記憶しています。
列車は2両編成で、お客さんは全部で4、5人という感じでしょうか。1両編成でも良いような気がしますが、この列車が終点で折り返して、再び津軽五所川原駅に着く頃に、2両編成の意味が出てくる…という事なのでしょう。列車は定刻通りに出発。更に北を目指します。
まだ朝早い時間帯の為か、列車は1つ1つの駅に停まるわけではなく、通過する駅も少しだけ設定されているようでした。地方鉄道ではたまに見る光景で、これも効率化の一環になっているのかもしれません。お客さんも途中で降りたりして、いよいよ2両編成の内1両は貸し切り状態となってしまいました。車内からは津軽富士と呼ばれる岩木山が見え(左上写真参照)、何だか津軽鉄道からの歓迎を受けているような気分になったものでした(笑)。
そうこうしている内に、終点の津軽中里駅に到着します。ここまで、津軽御五所川原駅からは約30分と、本当に小旅行という感じですが、この駅が日本最北端の私鉄駅ともなるわけです。思えば遠くに来たもんです(笑)。駅舎自体はスーパーに隣接していた形をとっていたので若干味気無いですが、いま自分は日本最北端の私鉄駅にいるという自負を持ちつつ、これから始めさせる“さんぽ”の活力にしたいと思いました。
…という事で、早速今来た鉄路を戻ります(笑)。先程の車内とは一転して、学生ばかりが目立つ状態となっており、だいぶ活気のある車内になってきました。ボックス席は全て占領されてしまったので、運転席の横に場所を陣取ると、正面の窓付近に文庫本が何冊か置かれているではありませんか。御自由にどうぞ…との事でしたが、確かにここは太宰治出身の地でもあり、車両には『走れメロス号』の愛称も付けられています。文学作品に気軽に触れられるように…という配慮なのかもしれません。ちなみに、これらの文庫本は主要駅の待合室にも置いてあり、家に持ち帰って読んでも良く、読み終わったら元の場所に戻しておいて下さい…との事。中には著者のサインまでもが書かれた本もあり、時間があったら利用したいシステムではありますよね。
さて、1駅進んで、深郷田という駅で降ります。「ふこうだ」…と読む、変わった駅名なのですが、ここから更に1駅先の大沢内駅まで“さんぽ”してみましょう。まだ時刻は朝の7:20ぐらいであり、こんなに朝早くから駅を降りて“さんぽ”するのも珍しいのですが(笑)、津軽半島らしい荒涼とした雪景色と、活気ある列車内の雰囲気とは対照的な静かな街並みを歩くのは、東京に住んでいては滅多に体験出来ない事でもあるので楽しいです。まあ、この駅間では国道が津軽鉄道をオーバークロスする区間があり、そこからの撮影がメインではあるのですが…(笑)。
無事に津軽中里駅行きの下り列車を撮影し終え、大沢内駅へと向かいます。この撮影ポイントからは大沢内駅自体も見え、歩いてもあまり時間も掛からなそうでした。そうして、間も無く先程の折り返してきた列車に乗車し、上り方面へ2駅分、今度は芦野公園駅で下車します。
ここは東北の桜の名所である芦野公園に隣接した駅で、春先ではそれは見事な桜のトンネルを作り出してくれるのですが、流石にこの時期ではその風景を見出だす事は難しそうです。それでも駅の佇まいの雰囲気は良くて、東北の駅百選にも選ばれているくらいです。太陽があまり照り付けないのか、積雪も多く残っており、時間が止まったかのような演出を作り出していました。ここから1駅先の金木駅まで“さんぽ”したいと思います。
“さんぽ”中には、津軽中里駅行きの下り列車がやってきて、雑木林の区間を行く写真を撮る事が出来ました(左上写真参照)。何だか列車の本数が多いように感じるかもしれませんが、平日の朝の時間帯には、津軽中里駅〜金木駅間の区間列車が運転されていて、これを撮影予定に組み込んでいるからでもあります。言うならば、朝9:00頃までが勝負?の時で、これ以降は1時間に1本か、2時間に1本くらいの運転本数になってしまうので、だからこそ津軽鉄道の“さんぽ”は朝早くから始めたのでした。お陰で、この9:00までの時間で、路線の半分にあたる津軽中里駅〜金木駅(右上写真参照)間を制覇出来た事になったのです。
金木駅は路線の中枢ともなる駅で、沿線で唯一の列車交換が出来る駅です。駅舎も前述の写真のように立派で、売店や食堂も併設されています。また、中間駅で唯一の有人駅でもあるので、数ある津軽鉄道の駅の中でもひときわ賑やかな駅と言いますか、現代を感じられる駅でもあると思います。周囲も明るくなってきており、岩木山も全容を現してくれました(左上写真参照)。空気が澄んでおり、本当に気持ちの良い朝です。
ここでは昔ながらのタブレット交換(右上写真参照)が見られます。タブレットとは、列車の安全運行には関わる大事なシステムで、完結に言うと、それ(タブレット)を持っていないと、列車はその先の区間は走れないというものです。このタブレットは1つの区間に1つしか存在しないので、結果的に列車同士の衝突が避けられるという、シンプルですが極めて安全なシステムであるとも言えるでしょう。現在は、自動化、複雑化が進められているので、このような形態を見られる場所も限られてきてしまいましたが、津軽鉄道ではこのような鉄道の一時代が垣間見れる光景が日常として展開されているわけです。
さて、距離的にはもう後半戦となりましたが、列車に乗り、また1駅先の嘉瀬駅で降りてみる事にしましょう。営業距離的には短い津軽鉄道ですので、今回は1駅乗っては降り、1駅乗っては降りの1日になりそうです。
嘉瀬駅のホームには、「落書き列車」と称される、かつての車両が留置されているのが目に飛び込んできます。これは SMAP の香取慎吾さんが、『夢のキャンパス号』という企画デザインによって描かれた車両で、沿線を走行していた時期もありました。現在は廃車の状態にあり、残念ながら車内も入る事は出来ません。
ここから、更に1駅先の毘沙門駅まで“さんぽ”したいと思います。距離的には約3kmと結構ありますが、晴れ間の広がる天候はこの上ない活力の後押しになりそうです。実は、青森地方は最近まで大雪や吹雪が続いており、天候によっては外を歩けないかもと思っていたのですが、一転して散歩日和とも言える天気となっていました。逆に、津軽地方の名物である地吹雪を体験出来ないのが残念と言えば残念ですが、これは贅沢な悩みと言うものでしょう(笑)。
そうして駅間で列車を待っていると、今まで乗ってきたディーゼル車両に、旧型車両が1両連結されている列車が走ってきました(右上写真参照)。これぞ、この時期限定であり、津軽鉄道名物の「ストーブ列車」です。ノスタルジックな旧型車両は全部で3両ありますが、その中でも古いものですと1948年製で、車内には石炭を燃料とするダルマストーブが置いてあります。本来ならばディーゼル機関車が客車とディーゼルカーを牽引する形をとっているのですが、この時はどうやら機関車がメンテナンス中だったようで、上記のような運行形態になっているようでした。ディーゼル機関車も名物の1つだったので、今回見られないのは残念でしたが、上記の状態も珍しいと言えば珍しい光景なので、良しとしましょう(笑)。これは今回の最後に乗る予定にしているので、後述させて頂きます。
…そしてゆっくり、1時間以上掛けて毘沙門駅に到着しました。集落から離れた小さな駅で、津軽鉄道の中でも最も乗降客数の少ない駅でもあります。そう言えば、朝に乗った列車は当駅を通過していました。ホームの背後には自然の脅威から守る鉄道林も存在し、この駅の特徴を浮き出しているような気がします。ここから、またまた1駅だけ移動し、津軽飯詰駅で下車します。
津軽飯詰駅は元々列車の行き違いが出来る駅でしたが、現在は1面1線の棒線状の駅となっています。ただ、駅構内の端に目をやると、線路の分岐器上にスノーシェッドが設置されているのが分かります(右上写真参照)。今は使われていない分岐器ですが、かつて風雪から制動を守る為に設置されたのが現在でも残っているのです。これは雪国ではよく見る設備ではありますが、面白いのは、ここでは西側(写真では右側)から吹き付ける季節風対策が強化されていて、そちら側は厳重になっているのに対し、東側は鉄骨のみになっているという事でしょう。効率化を図る地方私鉄ならではの事かもしれません。
ここは現在は無人駅ですが、駅舎は有人駅時代のままで、今にも駅員の人が姿を見せてくれるかのようです。駅舎内には、東北能開大青森校の協力により、無人駅という状況でありながら、ペレットストーブなるストーブが稼働しており、大変温かい空間を作り出してくれているので、なかなか外に出たくなくなってしまいます(笑)。…が、ここから更に1駅分進んだ五農校前駅まで“さんぽ”してみましょう。
これらの駅間は1kmとなっていますが、歩いていくと多少大回りになるのと、今の時期は積雪で通れない道もあったりしたので、道のり的にはなかなかの距離になっていた事でしょう。周囲は開けていて、正に一面銀世界という感じでしたが、その向こうには相変わらず綺麗な岩木山も望めたりと、正に天候に恵まれた1日だと改めて思いましたね。
そうして五農校前駅までやってきました。五農校というのは青森県立五所川原農林高等学校の事で、その最寄り駅という事なのでしょう。確かに、いま来た道の脇に校門らしきものがあったのは覚えているのですが、校舎らしきものが全く見えなかったような気がします。…実は、それもその筈でして、この学校は敷地が広く(日本で2番目に大きいとか)、校門から校舎までが約800mもあるらしいのです。これは、列車通学では気を付けなければいけないですね。駅から校門は徒歩3分程度ですが、そこから校舎までは更に10分程掛かるらしいので…(笑)。
さて、列車に乗って次の十川駅までやってくると、もう起点の津軽五所川原駅まではあと1駅という状態になってしまいました。もう鉄道さんぽも終わりが近付いてきたわけですが、前述の「ストーブ列車」を満喫させるべく、当駅で下車してから、再度津軽中里駅行きの列車に乗って金木駅まで戻り、ここでまた折り返して再度津軽五所川原駅に向かうという手筈を取りました。やはり旧型車両を使用するストーブ列車は体験しておかなくてはなりません。もう60年以上も使われている車両なので、いつ無くなってもおかしくないのですから…。
現在、ストーブ列車の旧型車両に乗るには、乗車券の他にストーブ列車券の400円が別途必要です。津軽鉄道では普通乗車券を含め、全て昔ながらの硬券が使われており、これも鉄道好きにはたまらない要素の1つでしょう。車内に入ると非常に温かく、それが2台のダルマストーブによるものだと、すぐに分かりました。この日は平日のせいか、お客さんは全部で5組程度でしたが、津軽半島のツアー等でこの列車乗車が組み込まれているのもあり、確かに前回乗った時には団体客で大賑わいな状態でした。
車掌さんによって石炭が焼べられ、更にその温かさが増してきます。…というか、ストーブが目の前に位置する席に座った為か、むしろ暑過ぎるぐらいだったかもしれません。本来ならば、外は吹雪の中での有り難みというのを感じたりするのでしょうが、この日は幸か不幸か絶好の天気だったので(笑)、日差しの強さも相まって、汗が滲んでくるような状態でもありました。
そして車内ではスルメや日本酒等の販売もあり、早速購入して楽しみます。勿論、スルメは前述のダルマストーブで炙ってくれます。どちらもオリジナル商品で、よく見ると日本酒の名前は「ストーブ酒」。ラベルにはストーブ列車と踏切の写真が掲載されており、踏切注意が“飲み過ぎ注意”になっていました(笑)。それにしても、この旧型車両の持つ、独特の温もり…とでも言うのでしょうか。本当に落ち着きます。これが本来の汽車旅なのではないかと思って旅情に耽ってしまうのは、日本酒を飲んでいたせいかもしれませんが…。
このストーブ列車には車掌の他に、沿線案内をしてくれる(先程のスルメも炙ってくれていました)アテンダントの方も乗車されています。今まで通ってきた駅周辺で見てきた物の話しもしてくれるので、あたかも津軽鉄道の復習講座を受けているような感覚になりますが(笑)、鉄道林の話しや、地吹雪を防ぐ防風壁の説明、そして、一昨日くらいまでの天気が嘘のように晴れてしまっているので、今日は本来の津軽鉄道の冬らしくない日でもあった…という事まで地元目線で教えてくれました(笑)。
そのように過ごしていると、もう列車は津軽五所川原駅に向け、市街地に入っているところでした。所要時間は約30分(本来の列車より若干遅めに走っています)と短かったですが、良い小旅行だったと思います。駅に着くと、先頭のディーゼル車が切り離され、今度は反対側の津軽中里側に連結されていきます。この日はもう1往復の運行が予定されているようで、成程、津軽鉄道の駅舎には多くのお客さんが列車を待っている状態でした。
これで津軽鉄道の“さんぽ”は終了となります。だいぶ天気に恵まれてしまい、いわゆる冬の厳しい風情を感じる事はありませんでしたが(笑)、好天の中、元気に走り回る津軽鉄道の車両が見る事が出来て良かったです。本州最北の地の鉄道ですが、少し身近な存在になれたような気がしたものでした。前回、今回と、津軽鉄道へはまだ冬の季節にしか訪れていませんが、春には前述の芦野公園への特別列車、夏になれば風鈴列車、秋には鈴虫列車(笑)と、色々なアイデアで多くの人に乗って貰おうという努力が見られる鉄道会社でもあります。ここの魅力は冬だけではなく、季節感そのものなのかもしれませんね。
☆津軽鉄道のHP…http://tsutetsu.com