非電化路線なのに電車が導入…というのは不思議な話しですが、簡単に言うと、パンタグラフを持つも、車体にリチウムイオン電池を搭載し、架線の無い区間でも走れるようにした電車なのです。愛称は、蓄電池を表す英語の Accumulator から“ACCUM”(アキュム)と名付けられており、早速地元では、烏山線で初の電車!…という事で、大きな歓迎がされています。確かに、この車両に対する期待は大きく、今のところ搭載されている蓄電池の容量が烏山線に適していた事から(宝積寺駅〜宇都宮駅間で、電化されているJR東北本線に乗り入れているというのも、適合の理由に値するでしょう)、まずは烏山線への導入に至ったようですが、色々と応用する事によって、他線への導入も考えられる事でしょう。ディーゼルカーよりも環境に優しいのは確かですし、近代化も一気に進展していきそうです。
そして、ここが大きいのですが、いずれは烏山線は全てEVーE301系での運転に置き換えられるようで(時期はまだ未定)、現在のようにキハ40形と共演している期間は今しか無いのです。烏山線は、栃木県という、東京からもそんなに時間を掛けずに訪れる事が出来る、気軽なローカル線ではありますが、今の雰囲気がいつまで続くかも分からず、今回の『鉄道さんぽ』の路線とさせて頂いたのでした。
日中は2時間に1本しか走らないような路線である為、行き当たりバッタリで乗るわけにはいかず、わりと計画を立てて臨んだものの、早速この日の早朝にキハ40形の車両に不備があり、ダイヤが乱れるというトラブルが発生してしまいました。本数が少ない路線でのダイヤの乱れは大変な事で(笑)、計画が崩れてしまうのかと心配にもなりましたが、ACCUM にも無事乗れ、烏山線を満喫する事が出来ました。久し振りの本格的なローカル線もあります。どうぞ御覧下さいませ!
●日時…2014年6月2日 ●距離…20,4km ●駅数…8駅
烏山線の起点は宝積寺駅ですが、前述のように東北本線に乗り入れ、2つ先の宇都宮駅まで顔を出している列車も数多く設定されています。今回も宇都宮駅に朝7:20頃には到着し、宇都宮駅に7:33に到着する烏山線からの列車を待ち構えていたものでした。この列車は、朝ラッシュ時に1往復だけする烏山線唯一の3両編成の列車だからです。
しかし、所定の時刻を過ぎても列車は到着しません…。おかしいなと思いましたが、ラッシュ時でもあるので、混雑か何かで遅れているのかなとも思ったりしていました。そのまま10分程が経ち、ようやく駅の放送で、宝積寺駅で車両トラブルの為、運転を見合わせている…との情報が入ってきました。
これはなかなか困りました。最近の『鉄道さんぽ』のように10分程待てば次の列車が来るような路線だったら良いのですが、烏山線は1〜2時間毎の運転と、1本が運休になっただけで、だいぶ計画が崩れてしまうのです。その後、続報を待ちましたが、どうやら運休になるのは東北本線区間の宝積寺駅〜宇都宮駅間だけのようで、次に乗ろうとしていた宇都宮駅始発の烏山駅行きの列車も、宝積寺駅始発になるとの事。…という事で、ひとまず東北本線の列車で宝積寺駅まで向かい、改めて乗り換えて、烏山線入りを果たす事になったのでした。とりあえずは烏山線自体が運休にはなっていなさそうで良かったです。
そうして訪れた宝積寺駅では、乗り換えの際の跨線橋はホームが、朝の通学の学生で大混雑をしていました。のんびりとした列車旅を期待していた自分からすると意外な光景でしたが、学生達は2つ目の仁井田駅で一気に降りていきました。そして車内は、右上写真のような状態へ…。はい、これこそイメージ通りのローカル線の光景でございます(笑)。
烏山線は列車の本数が少ないので、手前の駅から順に“さんぽ”を進めていくと、どうも効率が悪くなってしまう事が分かっていました。…なので今回は、なるべく効率の良い“さんぽ”をするべく、路線を行ったり来たりしながら向かわせて頂きたいと思います。本数が少ないとは言え、路線延長が短いので可能なやり方とも言えましょう。…という事で、まず降りたのは大金という駅でした。この駅は、再度訪れる事になりますが、まずは大金駅から次の小塙駅まで“さんぽ”をしてみましょう。大金駅は、単線の烏山線で唯一列車の交換が出来る駅で、早速旧国鉄2色塗装に塗られたキハ40形を見る事が出来ました(右下写真参照)。ちなみに、白色の車両が、烏山線用に塗られた塗装であります。
大金駅は「おおがね」と読みますが、縁起の良い名前なので、宝積寺駅と合わせて、烏山線全体に七福神のキャラクターが設定されていたりします。その最たる例が駅名板で、宝積寺駅を除くと全部で7駅ある事から、それぞれに異なる七福神が描かれています(宝積寺駅の駅名板には全員が集合しています)。ちなみに大金駅はやはり、大黒天が描かれていました(笑)。また、烏山線に所属しているキハ40形にも、それぞれ車両毎に、異なる七福神が描かれています。
…さて、列車が行ってしまうと、大金駅(無人駅です)周辺は急に静寂に包まれました。次に烏山方面への列車が来るのは約2時間後で、その列車が来る前に小塙駅まで到達していれば良い事になります。同時間帯に宝積寺方面の列車も来るので、途中でその列車をカメラに収める事も出来そうですね。この近くには荒川(埼玉、都内のものとは異なる川です)という川が右に左に蛇行しながら流れていて、大金駅から小塙駅までは“さんぽ”ですと線路と並行して進めず、結構回り道をしながら向かう事になるのですが、それでも約1時間程で小塙駅には着いてしまう事になりました。余裕の到着ですが、この日は天気が良かった為に、既に汗だく且つ、日焼けも心配な感じではありました。
荒川を渡るキハ40形(左上写真参照)を撮りつつ、片面ホームの小塙駅へ。ホームは意外にもリニューアルされていて、綺麗な姿を留めていました。この駅も無人駅…と言いますか、烏山線の駅は基本、終点の烏山駅を除いて無人駅となっています。ちなみに、小塙駅には恵比寿神が描かれていました。
…さて、先程撮った列車は宝積寺方面の列車だったので、恐らくこの先の大金駅で烏山方面への列車と擦れ違い交換を行っている事でしょう。そしてその烏山方面の列車も、そろそろ小塙駅にやってくる頃です。そしてその列車こそがいよいよ、前述した ACCUM での運行となっていたのでした。
…暫くして、遠くから電車風の車両がやってきましたが、パンタグラフは畳んでありますし、何よりここは非電化区間であるというのが、見た目的に不思議な感じを醸し出しています。今まで乗ってきたキハ40形のようなエンジン音はせず、時折モーターの音が聞こえるので、やはり電車という括りになるのでしょうが、これが蓄電池駆動電車の特徴という事なのでしょう。車内は最近のJR東日本の車両という感じで、両開き、3扉車である事から、都心を走っていても差し支え無さそうな雰囲気でした。また、車内灯は LED 化されており、正に最新鋭の技術を持って生まれた車両であるとも言えるでしょう。また、駅を発車する時に発車メロディが流れてきたのですが、これは車両側に設置されているもので、成程、無人駅等を走るローカル線ならではの対策がされている車両なのだとも思いました。
この列車で、このまま終点の烏山駅まで向かってしまいましょう。蓄電池駆動電車というからには、どこかで充電ポイントが必要になってくるわけですが、正に烏山駅には上写真のように、一部分だけ充電設備として架線が張られているのです。これらの写真をよく見ると、左上の方はパンタグラフを降ろしていますが、右上の方を見るとパンタグラフを上げ、いわゆる「充電中」である事が分かります。そしてどうやら充電は5分程で完了してしまうらしく、だいぶ実用的な「充電時間」となっているようでした。ホームには“充電ゾーン”の案内も描かれ、この日は平日だったものの、休日にはこの車両見たさに、お客さんの数も増えているのだとか…。何だか明るい話題で喜ばしい事ですよね。
では、この烏山駅から1駅“さんぽ”して戻ってみる事にしましょう。充電は5分で終われど、次にその列車が折り返して発車するのは約1時間半後で(笑)、この列車を、1駅手前付近にある烏山線の有名撮影ポイントで写真に収める…というのが次の目的となります。
その1駅手前の駅は滝という駅で、正に駅の近くに龍門の滝という滝があり、その滝の向こうの方を烏山線が走る…という構図が得られるポイントがあるのです。今回、自分は烏山線に乗るのは3回目だったのですが、恐らく初めて乗ったのは中学生ぐらいの頃だったと思います(2回目は仕事で乗ったので、特に何も見ていません)。そして、その時にもこの滝駅は訪れていて、前述の構図で写真を撮っていたのでした。あれから20年近くは経ってしまいましたが、その時撮ったのはキハ40形。そして今回はEVーE301系 ACCUM(左下写真参照)…。ゆっくりですが、確実に烏山線の時代は変わろうとしているのが、改めて感じられたような気がしたものでした。
カメラに収めた ACCUM を見送ると、今度の同方面への列車がやってくるのは約1時間半後となります。既にこの場所に30分以上も居た為に、再度烏山方面の列車に乗り、烏山駅周辺でお昼ご飯を食べつつ時間を潰す事にしました。今回の『鉄道さんぽ』は、歩いた総距離は結構なものになると思いますが、相当時間の進み方がゆっくりな気がしますね。
烏山駅で1時間程滞在した後に出発し、再度大金駅へとやってきました。今度は宝積寺方面に1駅“さんぽ”していきたいと思いますが、大金駅ではキハ40形と ACCUM の並びを見る事が出来ました。日中の烏山線の運用は2編成のみによって賄われていて、その内1編成は ACCUM なので、必ずその2編成が擦れ違うように設定されている大金駅では、これら新旧車両の共演が見られる事になっているのでした。改めてその2種類の車両を見ると、随分 ACCUM はモダンだなと思いますが、キハ40形は重厚感があって、何とも鉄道らしい車両だなとも思います。いずれ烏山線は ACCUM だけの運行になってしまうので、キハ40形もここでは見られなくなってしまいそうですが、強く目に焼き付けておきたい光景でもありました。
ここ大金駅から1駅先の鴻野山駅までの距離は4、4kmと、烏山線で最も駅間の長い区間でもあり、最も景色に変化が富んでいる区間でもあります。路線的には、大金駅から鴻野山駅に向かうに従って長い上り坂になっており、軽い山越えをしていくような感覚が得られます。そこを歩くのですから結構大変ですが、純日本風景と言いますか、何とも素朴で烏山線らしい雰囲気が味わえた区間だとも思いました。やはり、こういった区間にはキハ40形が似合いますね。
烏山駅から乗ってきた列車で大金駅に着いたのが14:15頃。そして、上写真のポイントでそれぞれの列車を撮ったのが15:40前後。そして鴻野山駅に着き、そこから宝積寺方面への次の列車は17:07発でしたから、4、4km(この距離は路線上なので、実際は更に歩いています…)を、約3時間掛けて“さんぽ”した事になりました。本当にのんびりとした“さんぽ”ではありませんか。そして、日中は2編成のみの運用が故、この日は何度同じ車両を見た事か…(笑)。朝方に見た旧国鉄塗装の編成が既に懐かしいですが、何だか烏山線が非常に身近な存在に思えてきてしまいましたね。
…さて、鴻野山駅を出て暫くして、列車は元来たところの宝積寺駅(右下写真参照)に到着。これにて烏山線の“さんぽ”は終了となりました。宝積寺駅の側線を見てみると、首都圏色と呼ばれる朱色1色のキハ40形(烏山線が開通90周年を迎えた2013年に、記念として塗り替えられました)が1両留置されていて、夕方になって運用に入った旧国鉄塗装の編成と合わせて、烏山線所属の全3パターンの塗装のキハ40形を収める事が出来ました(左下写真参照…写真の右側を走っているのは東北本線205系です)。これから引退するであろうキハ40形を、少しでも沢山見る事が出来て良かったです。
関東では最後のキハ40形使用路線となっている烏山線ですが、この日は思う存分満喫出来たように思いました。勿論 ACCUM の存在も忘れてはいけませんが、汽車旅を演出してくれたのは間違い無くキハ40形の方でしょう…。ローカル線とは言え、栃木県の宇都宮を拠点としているので、首都圏からは気軽に行く事が出来ると思います。是非その「汽車旅」ならではの雰囲気を体験して頂きたいですね。…そして、恐らく他の路線にも応用出来るこれからの ACCUM にも、どうぞ注目していって下さい!
※それにしても日差しの強い、暑い1日でした。この烏山線の“さんぽ”の後、
宇都宮で餃子(ビールセット)を食べたのは言うまでもありません(笑)。