そんな中、恐らくバンドでライブをやるというのは(ピアノでの弾き語りをしたり、デュオ編成とかでは、たまにライブをしているようです)久々な筈である彬子さんですが、今回はかなり気合いを入れてのライブ出演だったようです。久しぶり…という事もあるとは思いますが、今回取り上げた曲というのが新曲ばかりであり、しかもそれは、今までの川上さんの曲の雰囲気とは大分異なるものになっている等、ある意味で挑戦的なライブにしようという発想があるような気がしました。
具体的に言えば、ライブでやった全7曲のうち、バンドで初披露となった曲は5曲もあったのです。この時点で、かなりの攻めの姿勢が見えてくるというものですが、逆に言えば、今までのものと違い過ぎて、どんな反応が返ってくるのか、不安に思う事もあったと思います。
それでも、今回はこのままライブをやり切りました。…というのも、今回のライブはそもそも最初に、“東京キネマ倶楽部”というお店のイメージに合わせたライブをやる…というコンセプトがあったからです。東京キネマ倶楽部は、お店の名前からも雰囲気を察すると思いますが、元々キャバレーのような場所で、ホールという空間の中で、どこか明治や大正の雰囲気を醸し出しているようなオーラがあります。それはつまり、当時の退廃的な文化の象徴でもあり、それが現在の川上さんの、自分に対する音楽活動に合致していたのではないでしょうか。
…成程、それなら自分達サポート・メンバーも、そういった雰囲気を作り出していかなくてはなりません。しかし、殆どが新曲…という、最初から難しい条件があるのにも関わらず、元々はピアノと歌のみで作られて、そこからバンド用にアレンジしなければならないものばかりだったので、その作業には相当苦労させられたものでした。
しかし、アレンジ作業をしていく内に、それらの新曲の雰囲気が大方固まってくると、何だか既存の曲も少し変えてやってみたくなってきたのですから不思議です…。今回の既存の曲というと“パンジー”と“変わらない愛があるのです”の2曲だったのですが、これらも少しだけ手を加えさせて頂きました。特に後者は、細かい所ですが、雰囲気は結構変える事に成功出来たのではないかと思っております。
つまり今回のライブでは、既存通りにやった曲は存在しない…という結果になったわけです。それこそ、前回の4月末のライブ以来に見に来てくれた方々からしたら、今回は大変化のライブに映るでしょうね。これは、良くも悪くも…という見方になってしまうのは避けられない問題だとは思いますが、退廃的という意味では重要カテゴリーでもある気はしています。これで、次へのステップに繋げられればと、強く思いますね。
今回はイベント内での出演で、対バン形式で、自分達は3バンド目の出演となっていました。今回は全部で4バンドの出演だったので、結構重要な位置ではありますが、それも気合いを入れるには十分な条件とも言っても良いものでした。本番前にバンド・メンバーで、お店の近くに見付けた、とても豪華とは言えない中華料理屋に入り(笑)、お腹の充電もしておきます。…4月以来のシチュエーションでもあるので何となく懐かしい気もしましたが、これはライブ後、更に充実したものが感じられるに違いありません。実は、この“楽しみ”という感覚が、本番には重要なものなのかもしれませんね。
そしてイベントが始まり、じきに自分達の出番も回ってきました…。既に2バンドのライブが終わってからの出演となるわけですが、ここでまた自分達なりの個性を発揮させなければなりません。楽器編成こそ、特に目立った特徴はありませんが、曲の雰囲気作りには自信をもって表現していきたいところです。キネマ…という場所だからこそできるライブ…。あとは堂々と演奏すれば良いだけです。
今回は“Fighter”という、いきなりの新曲から始めさせて頂きました。これを最初に持ってくるのは結構悩んだのものですが、今回のテーマにある通り、今までの川上さんのイメージをガラリと変えた印象にするには、もってこいの曲だと思ったのです。確かに、曲調もロック・テイストが強く、エレガントな雰囲気とでも言いましょうか…。表面上だけ聴くと細かく、何だかゴチャゴチャ弾いているように感じてしまう曲ではありますが、実はもっと大きいところで曲を捉えている部分も見受けられるという、不思議な距離感で聴ける曲だと思います。ここでまず、聴き手に「あれっ!?」…と思わせる事が出来たら成功だと言えるでしょう。
そして、そのまま“パンジー”と“変わらない愛があるのです”に突入します。この曲は、前回のライブでも取り上げた、言わば今回では数少ない“既存曲”ですが、前者は構成を変えたり、後者はイントロ部分の雰囲気等を変えたりと、やはり手を加えた状態での披露とさせて頂きました。先程も書きましたが、特に“変わらない愛があるのです”という曲では、イントロをピアノだけにして、そのフレーズも既存のものより変化させて、かなりシンプルに、それでいてインパクトの強いハーモニーで弾いてみたりしました。これは当初は思い付きだったのですが(笑)、それがそのアレンジのイメージを決定付ける程のモチーフにもなれた気がしました。個人的には好きなアレンジの1つですね。
その次は、完全な新曲の“Game”です。この曲こそ、正に今回の場所の為にあるような曲で、アレンジもそのイメージをそのままに、曲に反映させてみる事にしました。途中、ジャズっぽいフィーリングで進んでいったりもするのですが、完全にジャズ化する事は、個人的にはNGのような気がしてなりませんでした。それは退廃的ではなく、むしろ格好良さだけを目的としたやり方を感じたからです。ここでは4ビートのリズムが出てきますが、それがイコール、ジャズ…ではないという事を感じて頂けれたら幸いだと思います。
もう後半戦と言っても良い5曲目は、ピアノとボーカルのみで演奏した“天使の梯子”でした。これは、今回が初お披露目ではないようですが、バンドで出演したライブでは初めてだったように思います(…とは言え、バンドで演奏していませんが…笑)。いわゆるバラード曲で、デュオならではの“タメ”や、“寄り添い”の表現を駆使して弾いていきました。そして、このような曲はダイナミクスが特に重要なのです。感情を入れて、丁寧に演奏したものでした。また、何となくですが、この曲は、今までの川上さんのオリジナル曲の特徴を上手く取り入れつつ、また新たなオリジナルに脱皮させる事に成功している曲のような気がしてなりませんでした。いずれバンドでも演奏してみたいものですね。
お次は、少しセッション感覚で演奏したカバー曲、“One For All”です。唯一の英語歌詞でもありますが、これまた良い変化にもなったのではないでしょうか?…気軽に聴ける感じが優しく、それでいてセッション感覚で弾く事にしたので、もちろん緊張感は存在しています…。これは、即興性から生まれてくる緊張感ですから、今までのものとも少し違い、結果的にこのバンドに新たな風を吹き込んでくれました。気の置けないメンバー達と今まで一緒にやってきたからこそ、挑戦できる曲であるとも言えるでしょうね。
そして、最後はこちらも完全な新曲である“瑞風”です。こちらは川上さんのオリジナル曲ではなく、違う方から提供された曲ですが(歌詞は書いてると思いますが…)、もちろん自分のものと言わんばかりに歌いきっていました。この曲は、元々ホーン・アレンジから聴かされていて、これを自分達の編成でやるにはどうしたら良いか…と、色々考えさせたれたものでしたが、結果的にギターを母体とした構成にアレンジしていく事にしました。それらを聴き比べて、どちらが良い…という感じは全く無く、ホーン・アレンジとバンド・アレンジ…という、お互いが共存できる距離感で作っていったのが、今回は良かったような気がしました。
曲が全部終わると、川上さんは司会の方からインタビューを受けに、ステージ横のひな壇の方に上がって行きましたが、そこで待っていたのが、これまた強烈な個性を放つ方との対談でした(右上写真参照…笑)。まあ、これは全てのバンドにも行われるコーナーなのですが、これこそキネマの雰囲気なのかなと思い、変に感心してしまった自分がいたのも確かでした。ライブ直後に気付いたのが惜しかったですが…(笑)。
…さて、このように、1曲1曲にそれぞれ思い入れを持って挑戦した今回のライブでありましたが、お客さんにも沢山盛り上がって頂き、一先ず成功と言って良いライブが出来たように思いました。もちろん今回のような、今までとは方向性を変えたライブに、様々な意見が出てくるのは仕方無いと思いますが、これが現在の川上さんの状態をを表しているライブでもあるのです。まずは、その状態を感じる事が出来ただけでも、表現の豊かなライブであったと言う事が出来ると思うのです。まずはその事実をしっかりと受け止め、そしてこれからどのように進めていけるのか…、それらを見届けられれば良いなと思いますね。そういった意味では、今回のライブは、自分は重要な証人者としての役割もあったのかなと思いました。もちろん、曲をアレンジしたという面で、形の残るものが存在するのも確かですが、ライブというものは、その時その時のものでしかありません。今回挑戦した事を心に刻ませ、あの時の自分達の過程には自信があった…とハッキリ言えるよう、今後に臨んでいきたいと思います。“彬子”という名義になったライブ…と言いながら、先程から川上さん、川上さん…と書いている自分ですが(笑)、今後ともよろしくお願いします。どうもありがとうございました!
☆彬子さんのブログ…ameblo.jp/akiranochikara/
☆東京キネマ倶楽部のHP…www.kinema-club.com/