先週の土曜日の話しになりますが、ボーカルの鹿嶋敏行さんと、下北沢 Big Mouth にてライブをやってきました。鹿嶋さんとはもう長い付き合いになりますが、毎回拘りのあるライブを見せてくれて、聴いても一緒に演奏しても、刺激を常に受けさせて貰っている、そんなアーティストの1人だと自分では思っています。
そして、この日は特に刺激的な1日になりました。…というか、ライブをやる前からそうなる事は、自分も鹿嶋さんも明白だったのでは…と思われます。…というのも、この日は、ある人のトリビュート・ライブ的なものをしようという試みで立ち向かったのですが、その人というのがフランスの名歌手、エディット・ピアフだったからなのでした。
エディット・ピアフについては、今更説明するまでもないですが、フランスのシャンソン歌手であり、フランス国民の象徴存在でもありました。その意味では、フランスのシャンソンという文化を、第一線で育て上げた人…と言っても良いのかもしれません。現に、もう亡くなってから50年近くが経っているわけですが、未だに彼女のCD(レコード?)はフランスで売れていると言います…。最も、フランスで愛された歌手なのかもしれません。
この方のトリビュート…という事ですが、これはそうは簡単にはいきません。ピアフの歌は、彼女の悲劇的な生涯を反映しているとも言われていて、彼女の意思への理解無しでは、とても表現しきれるものではないのです。もちろん、これは歌どころか、曲にも反映されていて(…と、自分では思います)、実は昨年の10月の鹿嶋さんとのライブでも、同じくエディット・ピアフのトリビュート・ライブを行ったのですが〔“竹内大輔の写真日記(~2009)”エディット・ピアフ・トリビュート・ライブ参照〕、この時の演奏後ときたら、心身共に非常にぐったりしてしまったのを覚えています(笑)。しかも、この時ピアフの曲を取り上げたのは4曲だったのですが、今回は全てがエディット・ピアフもの(全具で7曲です)とみても良いラインナップ…。これは、生半可な気持ちでは演奏できないと思ったのは当たり前の事なのでした…。
そしてライブです。今回取り上げた曲は、“パリの空の下”、“バラ色の人生”、“愛の賛歌”等、ピアフの数ある曲の中でも、かなりメジャー級なものが入っています…。他には“アコーディオン弾き”、“王様の牢屋”、“谷間に3つの鐘が鳴る”という曲もやりましたが、これらは、ピアフ自体を知っている方なら、御存知な曲…という感じでしょうか?…そして、実は1曲だけ、美輪明宏の“ヨイトマケの唄”を取り上げたのですが(鹿嶋さんが自分と一緒にライブをやる時は、必ず取り上げる曲なのです…)、この方もエディット・ピアフに多大な影響を受けた内の1人…。ある意味、今回のトリビュートに相応しい曲だったと言えるかもしれません。
つまりは、今回はかなり真っ向勝負で、エディット・ピアフに立ち向かっていったところがあります。それはそれで無謀な挑戦なのかもしれませんが(笑)、自分は、演奏中には前ほどの疲れは感じなくなりました。少しは慣れた…という見方もありますが、何だかシャンソンの弾き方の一部分が見えてきた感じがあったからなのです。
それは、今回の“バラ色の人生”を演奏した時に特に顕著に現れました。今回、この曲を演奏するにあたって、1番は鹿嶋さん独自の日本語訳、そして2番はフランス語で歌ってみるという試みをやってみたのですが、その時に浮かぶ自分の伴奏フレーズというのが、明らかに1番と2番で異なる感じになってきたのです。
自分が、人の歌の伴奏でピアノを弾く時、もちろんボーカルの方から発する声を聴いて、それに合わせるような演奏を常に試みているわけですが、特に決まったフレーズはなく、基本的には歌の雰囲気で自分の中で消化して、そして音にそのまま出している感じがあります。そうなると当然と言えば当然なのですが、日本語の聞こえ方とフランス語の聞こえ方では、そこから消化されるフレーズは全く異なる物が出てきてしまうのです。そういえば、シャンソンをやっている時のピアノの伴奏って、何か不思議な特徴があるなと感じていたのですが(言葉で説明するのは難しいですが、例えば変に装飾音が多かったり、ポロポ♪ポロポ♪ポロン♪…って弾く感じが妙に目立ったり…)、正にフランス語での伴奏は、そんなフレーズが出てきてしまうのです。
…成程、あのシャンソン独特の演奏方法は、フランス語特有の喋り方による、グルーブの1つだったのか…と、自分では勝手に解釈されました(笑)。本当かどうかは分からない部分ではありますが、何だか個人的には目からウロコ状態であり、言わばシャンソン系を弾くのが幾分か楽になったのです。きっと、無理にシャンソンっぽく弾く必要は全く無くて、鹿嶋さんから出てくる言葉の粒を、そのままピアノに消化させれば良い…。ただ、これだけの事だったのです。
そうなると、よくシャンソンの曲を、日本語の歌詞で日本の歌謡曲風にアレンジして、その時の伴奏を、言わば本場のシャンソンのようなフレーズにして弾いている状況って、よくあるように思うのですが、あれは全くのナンセンスという事になりますね…。ただの本場の真似事…という感じでしょうか。まあ、それはそれでスタイルだから…と言うのならば仕方が無いのかもしれませんが、あまり自分にとっては面白くない事実ではありますね。自分も全くのシャンソン初心者なので何とも言えないですが、音楽という共通点からすると、やはり出音から生まれる、自分と周りとの調和を加えた解釈…を重視したいと思うわけです。まだまだ消化しきれていない部分はあるにしても、良い切っ掛けは与えて貰えた事になりました。また今後も活動の1つとして、続けていけたらと思いますね。
…と、このように、正味45分くらいの演奏でしたが、自分にとっては、非常に大きいものを得られたライブになりました。…しかし今回の演奏は、完成まではあと一歩…という感じだったのが正直なところです。頭では理解していても、それが表現にまで回れない…というか、もっと純粋な気持ちで演奏ができる筈だ…と思ったからです。それでも、改めてエディット・ピアフという表現者の偉大さと共に、彼女をもっと真正面から向かえられるように、更なる理解をしていこうとも思ったものでした。今回はどうもありがとうございました。…そしてやはり、聴いて頂いた皆さん、お疲れ様でした(笑)!
☆鹿嶋敏行さんのブログ…blogs.yahoo.co.jp/kajimarl_to_the_world
☆下北沢 Big Mouth のHP…www.livebarbigmouth.com/
先日のBIG MOUTHでは、ご挨拶させていただけて&演奏を聴くことが出来て、とても嬉しかったです。
(竹内さんの演奏に“心”を感じました。聴いた直後は、私も気持ちが高ぶっていて、うまく感想が言えなくてゴメンなさいm(_ _)m)
カジちゃん本人を前に「カジちゃんの選曲って大変じゃないですか?」←などとスゴいことを聞いてしまいました(;^_^A
何といいますか、カジちゃんの曲は、心の奥のほうの人間の本質であったり、人生であったり..etc.決してライトではないものが多いですよね。
(ピアフはまさに!)
カジちゃん自身、とても気力&体力をつかって取り組んでいるのを知っているで、パートナーの竹内さんも相当消耗が激しいのでは…と思ったのでした。
なので、今回の文を「なるほど」と思いながら拝見しております。
演奏する側からの視点が広がっていて、とてもわかりやすく、興味深く思いました。
二人にしかわからない「感覚の世界」というものがあると思うのですが、様々な曲を通して、私も少しでもその世界を感じて、何かを受け取りたい…そう思います。
またお目にかかれる日を楽しみにしておりますね♪
長々と失礼いたしました。寒い日が続いていますのでお風邪など召しませんように(^_-)
chieko♪
そうですね、もちろん楽なものではありませんが…。
鹿嶋さんとは、普段話している時は普通ですが(笑)、
やはりライブになると身が引き締まる思いになるというか、
特にスタートの合図も無く、“世界”が始まる感じが
しています。そこからはもう、お互いの音との真剣勝負
という感じですが、音の会話という側面もあるので、
ただ単に疲れるわけではなく、感覚が研ぎ澄まされる疲れと
言いますか、心地良いものであるとは思っています。
曲が無数にあれば、感覚の種類も無数あるという事で、
結構楽しくやってますよ!…また足をお運び下さいませ!
>にーにさん
そうですね。鹿嶋さんは曲を取り上げる時、ただ単に歌詞の
表面をなぞるだけではなく、例えば歌詞の内に秘められた人間の
本質というものを、鹿嶋さんという媒体に介して表に出させて、
そして歌に繋げていくという感じがあるかもしれません
(文章にすると、随分大仕掛けな感じがしてしまいますが…笑)。
それゆえ、確かにピュアな気持ちを感じて演奏する事は重要に
なりますね。…ある意味、自分達というフィルターを通して
表現する事になりますので…。ですが、やはり人間ですから、
独自の解釈を加えて表に出すというのは避けて通れません。
個人的には、それはそれで良いと思っています…。何故なら、
これがオリジナリティーという事でもあり、そこが鹿嶋さんの
魅力にも繋がっていると思うからです。是非、機会があったら
聴きにいらして下さい。面白い経験になるかもしれませんよ♪
遅くなりましたが…はい。ありがとうございました!