全線で電化がされていますが、電化の方式に特徴があり、小山駅付近のみ直流1500Vで、それ以外の区間は交流20000Vの区間となっています。これは茨城県石岡市付近に気象庁時地磁気観測所があり、それまでの鉄道で一般的だった直流電化を流すと、レールに流れる電流が地上に漏洩して地磁気観測に影響を与える為との事ですが、これは近くを走る常磐線の取手駅以北も同じ事情で、この付近に交直流の境目があります。故にこれらの区間を走る車両は交直両用の専門の車両が使われており、水戸線と常磐線の取手駅以北まで到達する車両は共通の部分が多いです。
現在、常磐線の上野駅まで到達する交直両用一般型電車は、グリーン車を連結するE531系に統一されましたが、それまでは415系という車両が主流でした。これは国鉄時代に登場した車両で、常磐線の上野駅で見られなくなってからは土浦駅以北や水戸線で見られるのみとなっていましたが、ついに2016年3月26日のダイヤ改正で、これらの路線から415系を引退させるとのアナウンスがありました。今回、水戸線に白羽の矢を立ててみたのは急遽でもありましたが、そんな理由があったからです。
前述の通り、現在415系は常磐線では土浦駅以北しか運用されていないので、常磐線の交直流の境目は通りません。こういった交直流の境目には電気の通ってない区間を少し設けていて、それをデッドセクションと呼んでいます。ここでは異なる電化方式を、車両を走らせながら切り替えるという事情から、いったん電気の通わせない時間が起こり、その時には車内灯等も消えていたものでした。しかし、E531系等の最近の車両では蓄電池からの供給が行われるらしく、車内灯は基本的には消えない事になっています。要するに415系が引退してしまうと、車内灯が消えるという体験はこの付近では見られない事になってしまうわけで、これはまたひとつの、昔の鉄道車両の風物詩が消えてしまう…と言っては大袈裟でしょうか(笑)。とにかく、それを体験すべく、久し振りに水戸線に乗ってみました。
E531系自体は、2015年1月31日までは当線での定期運用は無かったのですが、今では7割以上はE531系での運用となっています。ダイヤ改正の3月26日は、更にその純度は上がる事でしょう(他に、E501系という車両での運用が僅かにあります)。国鉄時代から走り続けた415系には自分も愛着があり、それはどちらかというと常磐線での活躍に馴染みがありましたが、場所を変えて最後の水戸線での活躍を見るのもまた一興だと思いました。それらの背景も含めた水戸線の“さんぽ”を、どうぞ楽しんで頂ければと思います!
●日時…2016年2月6日 ●距離…50,2km ●駅数…16駅
JR東北本線に乗って、上野駅方面から小山駅へやってくると、右側からJR水戸線の線路が近付いてきて小山駅へと入ります。つまり、上野方面から水戸線方面へは、小山駅で進行方向が逆になる配線で向かうわけです。現状、こうした直通運転の定期列車は設定されていないのでこれで良いのですが、以前、貨物が設定されていた時には、上野方面から、小山駅を通らずに直接水戸線に入れるように短絡線が設けられていて、今でもこの痕跡を見る事が出来ます(右下写真参照…線路は水戸線で、右奥に小山駅があります)。
小山駅には、今回お目当ての415系1500番台が早速停車していました。そして前述したデッドセクション区間を見るべく、次の小田林駅まで“さんぽ”してみましょう(今回、列車本数の少なさから、上下列車どちらも使って、行ったり来たりの“さんぽ”をしましたが、文章的には一方向で進めていきます)。…水戸線の線路は東北本線と分かれて暫くすると、先程説明した短絡線(線路は既に撤去済み)と合流し、進路を東に向けます。その後は直線が続きますが、その途中にデッドセクションは存在します。
電車に乗っていると、ある程度スピードを出したところで、急に電源がオフにでもなったような雰囲気が車内を包みます。実際、電車は交直切替の為のスイッチを入れており、ここからは惰性で走ります。この時、415系ですと右上写真のように非常灯を除いて車内灯は消えるので、デッドセクション突入への準備に入った事が分かります。デッドセクションの長さは約50m程なので、惰性でも十分通過出来るわけで、暫くするとまた電源が入ったような感じになり、車内灯も明るくなります。これで無事に、直流から交流への移行が終了となります(逆方向も同じ行程を辿ります)。
この区間を外から眺めてみると、確かに架線が普段とは異なっている事が分かります。つまりは配電されていない区間という事で、走る電車を見てみても、車内灯だけではなく、前照灯も片方しか点いていない事が確認して頂けると思います(左上写真参照)。しかし、これが最新鋭のE531系になりますと、車内灯も前照灯も点いたままになるので、この様子が見れるのもあと僅か…という事になりましょう。前述もしましたが、昔からあった鉄道の風物詩が見られなくなるのは、何となく寂しい感じもするものですね…。
…“さんぽ”を続けます。ここまで、415系ばかりの写真ではありましたが、実際にこの日時点で水戸線を走る車両と言えば殆どが左上写真のE531系で、415系はもう少数派という状況でした。その415系も、今度の3月26日のダイヤ改正で引退となります。現在の水戸線を大いに楽しんでおこうと思います。
線路は栃木県から茨城県に入って、小田林駅に着きます。1面1線ホームの駅で、列車の行き違いは出来ません。また、2014年3月15日のダイヤ改正までは、朝と深夜の一部の列車は当駅を通過していました。そしてこの次の駅が結城駅となります。水戸線の中間駅としては唯一の橋上駅舎の駅です。
その後、東結城駅(小田林駅と同じく、2014年3月15日のダイヤ改正まで、朝と深夜の一部の列車は当駅を通解していました)と続き、そこを過ぎると鬼怒川を渡ります。結構長い橋梁の割りには、トラスの無いスッキリとした外観なので、臨時列車等がここを通る時には格好の撮影ポイントになる事で有名です。
鬼怒川を渡ると川島駅に着きます。駅構内の北側は広い空間になっていますが、これは、この先の太平洋セメント川島サービスステーションへの、かつて専用線の名残で、1997年頃までは秩父鉄道からのセメント輸送列車が運行されていたようです。現在でも少しその面影を見る事が出来ます。
そして、1面1線ホームの玉戸駅を過ぎ、下館駅に到着します。真岡鐵道、関東鉄道と連絡をしている駅で、水戸線の列車も一部、当駅発・当駅止まりが設定されています。3線も乗り入れているので、構内はバラエティに富んでいますが、それに一層華を添えるのが、真岡鐵道で時折運転されてる蒸気機関車『SLもおか』号でしょう。今でこそ、臨時で走る蒸気機関車は珍しくはなくなりましたが、それでもこうして間近でSL列車を見れるというのは、気分も高まるというものです。関東圏内で、わりと手軽に足を運ぶ事が出来るので、是非ともチェックしてみて頂けたらと思います。
下館駅を出ると、徐々に丘陵地帯に入っていきます。…とは言え、それほど山間な場所にはならず、列車はスムーズに運転されます。この先は北関東自動車道と暫く並行するような感じで丘陵地帯を抜け、そして笠間駅に到着します。場所は笠間市。古くから日本三大稲荷に数えられる笠間稲荷神社の門前町として栄えた街です。
ここから次の宍戸駅までも“さんぽ”してみましょう。丘陵地帯を抜けて、そろそろ平野部に降り掛けるような場所でもあるので、この鉄道さんぽと共に、ゴールに近付いていく感じがありました。殆どが国道355号線と並行している区間で、その後国道と分かれて小さな集落に入っていくと、片面1面1線の宍戸駅に到着しました。
さて、宍戸駅を出発すると、進行方向右手からJR常磐線の線路が合流してきて、程なく水戸線終点の友部駅となります。こちらは直線で進入していて、常磐線の方がカーブしてきて合流するのは、歴史的に水戸線の路線の方が古いからでもあります。…とは言え、ここから先は現在では常磐線の線路…。水戸線と名が付くのに、水戸駅を通らない路線となってしまっていますが、列車の半分以上はそのまま常磐線に入り、水戸方面へ直通運転されています。
ここで見る車両は常磐線も含めて、特急列車がE657系、そして普通列車がE531系が殆どで、415系や、時折見るE501系は本当に少数派です。これで415系はあと数ヶ月の活躍となっているので、それ以降は更なる車両の単一化が起こりそうです。車両の近代化と共に失われていく、鉄道の昔ながらの風景。それは、友部駅がいつの間にか非常に近代的な駅に生まれ変わっていたのを見ても思いました。確実に鉄道の変化は進んでいます。こうした変化を見届ける意味でも、“鉄道さんぽ”の必要性?を感じたりもしました。2016年の鉄道さんぽも、どうぞよろしくお願いします!